稀代の解剖学者、三木成夫
横道に外れついでに、三木先生の話を少し。
千谷七郎を師と仰ぎ、東京医科歯科大学から芸大に移り、保健センター長として学生の健康を見守る傍ら、その解剖学の講義は大変な人気を博し、美術学部だけでなく、音楽学部の学生、ひいては他大学の学生も押しかける、芸大の名物講座となりました。
その講座で、毎年学生たちに聴かせるのが、胎児が胎内で聞く母親の心臓の鼓動と血管を流れる血液の音です。
教室は余りの迫力に、咳払い一つ起きません。
そのあと、プロジェクターに受精後35日前後の胎児の顔が大写しにされます。
その顔は今まさに爬虫類から両生類を経て、哺乳類になりかかっている「三つ指怠け者」のような顔をしています。
そこでおもむろに、「個体発生は宗族発生を繰り返す」と三木先生の声が響きます。